成果を下げる「物分りの良い態度」

成果を下げる「物分りの良い態度」

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影響力の武器、という本があります。マーケッターやコピーライターにとってはバイブルのような1冊です。
人が反応する心理トリガーについて解説された本です。

…もともと、著者のロバート・チャルディーニは、そのような心理トリガーに引っかからないように、販売側の手口として合うようされた時に自衛するために書いた本でした。それが、かえってそのような販売業者側が駆使している…というなんとも皮肉な一冊です。

それはさておき。
その中で、有名なコピー機の実験があります。
かつて紹介したこともあります。内容は次のような実験です。

昔,ある心理実験が行われました。
大学でコピーを取ろうとコピー機の前に並んでいる列があります。
順番を譲ってもらおうとする時に,次の3パターンでアプローチしました。
(1)ただ単に「順番を譲って下さい」とだけ言う
(2)「~という事情で急いでいるので,順番を譲って下さい」と言う
(3)「コピーを取りたいので順番を譲って下さい」と言う

譲ってもらえる確率を統計データとして集めた結果,(1)が一番低いのは言うまでもありません。
ここでの注目すべき結果は(2)と(3)が大体同じ程度の確率で譲ってもらえたというデータになりました。

(3)は,「コピーを取りたいので」とありますが,順番を譲ってもらう理由にはなっていません。
しかし,それでも(1)と比べると大きな差が付いたということです。

さて、本題です。
世の中、
「理由になっていない理由」
が多いように感じます。ここでいう
「コピーを取りたいので〜」
というものです。
これは理由になっていません。

別の話で、例えばこんな話もあります。
「どうして破産することになったのですか?」
という問いに対して、
「お金がなかったからです」
という回答があったとします。
これは理由になっているでしょうか。

…全くなっていないはずです。

極端なことを言うと、先ほどの(2)も、理由にはなっていません。
ちょっと考えてみてください。

あなたがずっとコピーを取ろうとコピー機の前で順番待ちをしています。
ある人がやってきて、
「〜の理由で急いでいるので、コピーを先に取らせれもらえませんか?」
と頼まれたとします。
これは、順番を譲る理由になっているでしょうか。
なっているかなっていないか。
そして、理由になっていると判断したのであれば、それはなぜか。
理由になっていない、と判断したのであればそれはなぜか。
考えてみてください。

理屈っぽい私だったら、こんな回答をするかもしれません。
「あなたが急いでいる理由はわかりました。ですが、私があなたのために順番を譲る理由はわかりません」

私にしてみればこれは理由になっていません。
順番を譲る理由が抜け落ちているからです。

人は理由のトリガーに反応します。
このコピー機の(1)〜(3)の実験で明らかです。
ならば、理由になっていない理由でもいい、という考え方はあります。
ですが、今の時代において、販売競争が激化する中においては、理由になっていない理由で人は動かなくなりつつあります。

だからこそ、すべてのものに対して、理由をきちんと用意すれば、非常に説得力があるコピーになります。
他のコピーと差別化できるのです。

もちろん、実際に、すべての理由をくどくど書いても、回りくどくてしつこいコピーになります。
その点は編集して読みやすくする必要はあります。
ですが、まずは理由を考えなければならないのです。

例えば、
「◯月◯日まで25%オフ」

この値引きのオファーには理由がありません。
なぜその日までと区切ったのか。そしてなぜ割引するのか。
理由がないのです。

ネットでよく見かけるのが、コンテンツの無料提供を
「先着200名まで」
などと区切っているものを見かけます。
これも理由はありません。

例えば、PDFファイルで提供するような情報コンテンツ。
何百人だろうが何千人だろうが、何万人だろうが、いくらでもコストを掛けずに提供可能です。
200人に限定する理由にはなっていないのです。

仮に、物販だったらまた別です。
「在庫一掃セール」
が非常に売れるのは、この理由に一貫性があるからです。

例えば、季節モノを仕入れるために、古いものを処分しなければならなくなった、というものです。
ここに理由が明確にあります。そして限定性も明確です。なぜなら在庫を一掃するまで、と具体的になっているからです。

よくある例で…例えば、母の日とか父の日にセール。
これも、意味がわかりません。
何の理由になっていないことに気付くのではないでしょうか。
なぜ、セールで値引きするのでしょうか。

あとは、創業◯周年記念セール。
これも理由がありません。

こういったところ一つ一つに理由をきちんと用意すること。
そこで差が出ます。
なぜでしょうか。

例えば、父の日セール。
なぜセールするのか。
「日頃、家計を支えるために忙しく働いているお父さんに、感謝の気持ちを形にしませんか?
贅沢なものを贈るのではなく、気持ちがこもったものを贈ってあげてください。
ただ、小遣いで買えるものとなると限られてしまいます。
そこで、当店をご利用のあなたに少しでも感謝の気持ちを形にしやすくなるように、父の日セールを行います」
と、理由を用意すればいいのです。
この理由をどのようなものにするのか。そこに経営理念が反映されます。

理由をいちいち考えるのは大変です。
だからこそ、真剣に、どうすれば顧客が納得する、一貫した理由になるのか。
そこに時間を要して考えることで、その会社の姿勢が表れるのです。

とりあえずよそもやっているからウチもセール…と、理由も考えずにセールしているようでは、差別化以前の話です。
特に、理由も示さずに締め切りや限定数などで希少性をアピールしたら「煽り」と受け取られかねません。

面倒でも、すべてのオファーに理由を考えてみてください。

その上で、その理由をそのまま出すか、コピーを書く都合で省略するかを考えればいいのです。

顧客は…理由が途中で多少飛んでいたとしても…納得はしてくれます。
必ず、真剣に理由を考えた痕跡がどこかに残るからです。
具体的にどこがどう、とは言えないにしても、真剣に考えたならば、削除したとしても伝わるものは必ずあります。

だからといって、
「きっと伝わるだろう」
と考えなかったなら…考えなかったことが伝わるのです。

今日のタイトル「物分りの良い」とは、理由のない理由に納得してしまうことです。
顧客が物分りが良いのは問題にならないかもしれません。
ですが…売手側が物分かりよく、理由を飛ばしてしまったら、成果を下げるだけです。手抜きをしてはいけません。

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