2016年春。100年以上続いた、一つの会社が終わりました。
多くの人がご存知であろう、シャープ株式会社です。
鴻海に買収された=シャープの終焉
とは限らないのでは、と思うかもしれません。
それは、これから時の流れの中で実証されていくことでしょう。
とはいえ、現時点においては「終焉」という他ないでしょう。
今日は、シャープを騙した鴻海の手口「承諾先取り商法」について解説します。
新聞記事などで、いちいち記事の裏付けは取りません。
概要のみにて展開してきます。
なぜなら、それが真実であるかどうか、ということが問題ではなく、
「承諾先取り商法」
の解説を目的としているからです。
事実の裏付けにつきましては、必要な方が各自で検証してください。
(1)買収条件
そもそも鴻海は買収額を7000億円という提案をしていました。
ところが、シャープが事実上買収先を鴻海に決定。
その結果、鴻海は買収額を1000億円下げてきたのです。
ちょっとここで考えてみてください。
7000億円という前提があったから、シャープは鴻海に決定したのです。
その背景にあるのは、買収先の対立候補であった、産業革新機構の買収案では、取引銀行に債務免除を迫るものだったからです。
シャープの取締役の中には、銀行出身の役員がいたため、産業革新機構案では通りづらかった、という事情も遭ったようです。
だからこそ、7000億円という額の提案に応じたのです。
ちょっと考えてみてください。
あなたが、自動車を売却しようとしたとします。
中古店に持って行き、査定したら70万円で売れる、ということがわかりました。
その金額に納得して
「70万円で売れるのであれば売却します」
と申し出したら、中古車店が
「わかりました。では10万円引いて60万円で買い取ります」
と言ってきたら、あなたはどう思うでしょうか。
「さっきの70万円というのは何だったのだろうか」
とか
「騙された」
と思うのではないでしょうか。
鴻海がやったことは、基本的に騙し討ちなのです。
もちろん、シャープ側が伏せていた「偶発債務」の問題はあるのかもしれません。
その点については、話が複雑すぎるので省略します。
(2)リストラ
鴻海の買収案の中で
「雇用維持」
という項目もありました。
そもそも、シャープがここまで落ち目になった理由の一つに、リストラ出来なかったことがあります。
なすべき時にリストラができず、雇用の維持に頑なにこだわったからこそ、立て直しが出来ないレベルの財政状況に陥ったのです。
それだけ社員を守ろうという姿勢については、脇に置きます。
ただ、買収案においても、雇用の維持というのはシャープにおいては、重要な要素のはずでした。
ところが…7000人規模のリストラ、という話が出ているようです。
シャープ、最大7000人リストラの真実味
http://toyokeizai.net/articles/-/117796
鴻海精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長と戴正呉副総裁が連名でシャープの全従業員宛てにメールを送信。その中で「シャープの経営に対する直近の調査で、遺憾ながらも従業員の削減というコスト削減策を実施しなければシャープは経営改善を果たせないということが明らかになった。(人員削減の)プロセスは責任を持って慎重に行われると保証する」とした。
(東洋経済オンラインより)
これも、騙し討ちの一つです。
では、なぜこんな騙し討ちが通るのでしょうか。
それが「承諾先取り商法」の恐ろしさでもあります。
その仕組みは次のとおりです。
(1)有利な条件を提示する
(2)その有利な条件で、合意する。
(3)有利な条件だけを撤回する
(4)「合意」という内容だけは残る
というものです。
例えば、先ほどの中古車の売却の例に当てはめます。
(1)査定額を70万円で提示
(2)70万円の売買価格で「売却の合意」
(3)70万円という金額を60万円に下げる
(4)売却の合意自体はそのまま維持されるため、60万円で売却となる
というものです。
もちろん、
「話が違うじゃないか」
と主張して、合意自体を白紙に戻す、という選択もあります。
ありますが、実際にそれは可能なのでしょうか。
シャープは、今から、鴻海との買収を白紙に戻して、産業革新機構に買収される、という方向転換は可能でしょうか。
これはさすがに非現実的でしょう。
現実的ではないのを知って、浸けこんでくる鴻海の姿勢をどう思うのか。
それは今日の主題ではないので、あなたの主観に任せます。
承諾先取り商法の話に戻します。
もう少し補足します。
先ほどの「売却の合意」とは、契約書の作成段階の前です。
契約書に70万円と書いて、60万円しか払わなかったら、さすがにそれは認められないでしょう。
不足分を提訴されてもおかしくはありません。
ですが、承諾先取り商法の恐ろしいところは、先に承諾を取っておくことで、承諾の前に急に売却の金額を変更してもその承諾が撤回されないのです。
例えば、
「すいません、先ほど70万円と案内しましたが、60万円の間違いでした。失礼しました。では、こちらの契約書に60万円の契約書です。署名押印お願いします」
などと言われたら、そのまま流されて署名押印してしまう傾向にあるのです。
100人中100人全員が…とは言いませんが、大多数が
「納得は行かないがまあ仕方がない」
と署名押印してしまうのです。
きっと、あなたもこれまでの人生の中で、同じような場面に遭遇したことがあるでしょう。
例えば、
「オマケでもらえる」
はずのものがもらえなかったり…。
この承諾先取り商法は、あまりにも強力なので、アメリカの一部の州では禁止されているとのことです。
では、なぜ承諾先取り商法がまかり通るのでしょうか。
基本的に、被害者側が「これは詐欺だ」と断罪すればいいだけの話です。
ですが、ここでの問題は「まあ仕方ない」と甘んじてしまうことにあります。
その背景にあるのは
「一貫性の法則」
です。人は一貫した行動を取ろうという習性があります。
だからこそ、
「承諾した」
という行為に対して、その承諾に一貫性を持った行動をするので、後出しジャンケンで、不利な条件を押し付けてきたり…あるいは有利な条件を取り除かれてしまっても、その承諾がそのまま維持されてしまうのです。
対策としては、
(1)承諾先取り商法、という悪徳商法の手段がある、ということを知っておくこと
(2)承諾先取り商法を仕掛けられた時に、「今自分は承諾先取り商法を仕掛けられている」と自覚すること
(3)後出しの条件が出てきた時に、「そもそも、この後出しの条件だった時に私はこの合意をしただろうか」と考えること
となります。
先程の例であれば、
「そもそも60万円の売却価格だった時に、その金額でも良かったのだろうか」
と考えることです。
60万円でもいい…ということであれば、問題ありません。
60万円だったら売却するつもりはなかった…と思えるのならば、そこで
「話が違いますよね」
と言って帰ればいいだけの話です。
今回は、「一貫性の法則」を悪用した「承諾先取り商法」を解説しました。
悪用もできますが、良い目的で使うこともできます。
マーケティングにおいて「一貫性」を維持できば、それだけで多くのライバルの上に立てるのです。
健闘を祈ります。
<予告>
6月29日(水)13時30分〜16時30分
東京から書籍を執筆した、あの東証一部上場のコンサルティング会社、船井総研出身のコンサルタントを札幌に招いて、出版記念セミナーまた読書会等を企画しています。
参加者にとって最大の価値を得てもらうために、読書会がいいのか、それともセミナーがいいのか。
内容はまだ検討をしています。
ですので、まずは、この日時を空けておいてください。
なお、開催場所はこちら。
札幌貸し会議室まなBiz
http://mana-biz.jp/?page_id=