先月のこと。
食事しながらニュースを見ていました。
食べ終わったので,席を立ち,食器を下げたり他の作業を開始。
テレビは特に見ていなかったのですが,そのまま付けっぱなしでした。
そして。
ある瞬間,バッと振り向いて思わずテレビに見入ってしまいました。
それは,あるCMでした。
動画はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=BHmybb3bL2g
※リンク先はYouTubeです。音が出ます。30秒の動画ですので,見てから続きをご覧下さい。
分かる人にしか分からないのですが。
けれど,分かる人には,
「思わずバッと振り向いてテレビに見入った」
と言われても,納得頂けるのではないでしょうか。
CM曲の,注意を引くトランペットの音がすばらしかったから…ではありません。
この曲は,あの人気ゲーム,ドラゴンクエスト3における象徴的な曲です。
「城」から車が「4」台出てくる,という凝った演出にも驚かされました…この点についてはゲームの内容なので説明は省略します。
ざっくり解説…の代わりに,ウィキペディアの一部をコピペしておきます。
『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』は、1988年(昭和63年)2月10日にエニックス(現:スクウェア・エニックス)より発売されたファミリーコンピュータ用ロールプレイングゲーム 。
ドラゴンクエストシリーズの第3作。堀井雄二の脚本・ゲームデザイン、鳥山明のキャラクターデザイン、すぎやまこういちのヒロイックな音楽などにより爆発的な人気を博し、発売日には量販店の前に数キロメートルの行列ができるなどの社会現象を巻き起こした。
日本での本作の発売日は平日(水曜日)であったにもかかわらず、発売日前日には販売店の前に徹夜の行列ができた。ビックカメラ池袋東口店(現:ビックカメラアウトレット池袋東口店)では前日から並んだ行列が最終的に1万人を超える長大な規模になり、マスコミのみならず、後に学習歴史漫画にも取り上げられた。徹夜したり、学校を無断欠席してまでソフトを買いに来る児童・生徒もおり、その補導が多発したほか、品切れで買えなかった少年らによる窃盗や恐喝などの犯罪も多発した。
…まあ,こんな感じで当時における空前の大ヒット作でした。
つまり,当時ゲームにはまった特定の層に対して,ピンポイントに狙い撃ちしたCMだと言えます。
ここに「人を振り向かせる」基本があります。
文字通り,他の作業をしていて,テレビを見ていなかった私が思わず振り向いてしまいました。
なぜでしょうか。
理由は2つほどあります。
1つ目は,「想定外」だからです。
よく「意外性」と表現されます。
まさか,お堅いニュース番組の間に流れるCMで,「あの」有名ゲームBGMが流れてくるわけです。
完全に想定外でしたので,あまりに意外で思わず振り向きました。
もうひとつは…言うまでもないでしょうが,この時代に,この曲を聴き続けた世代としては,懐かしさの余り振り向かずにはいられませんでした。
ダン・ケネディは,これを「アフィニティ・マーケティング」などと呼んだりします。
アフィニティ(affinity)とは親近感などと訳されます。
一部のの特定の層に対して,非常に親しみを与えるマーケティング手法です。
ここでは,ドラゴンクエスト3というゲームが好きだった人向け,という手法をとっています。
振り向く理由は主にこの2つです。
その上で。
この動画CMから学べる,「人を振り向かせるための最大の秘訣」は何か。
私が敢えて1つに絞るなら。
「全員を振り向かせようとしなかった」
ことにあります。
私などは,この音楽を聴くだけで,懐かしさと楽しさでいっぱいになります。
でも,知らない人は全く知りません。
それでいいのです。
知っている人「だけ」が,思わず振り向かずにはいられない,というところが最大の秘訣です。
なぜなら,万人を振り向かせようとすればするほど,メッセージがぼやけるからです。
ここでは,メッセージではなく音楽ですが,画像と曲で,伝えたいメッセージが演出できます。
それでも「ピンと来ない」人は,もうそれでいいのです。
これはマーケティングだけに留まらず,コピーライティングでも全く同じです。
みんなに当てはまるような文章を書くと,メッセージがぼやけて,全く伝わりません。
学生時代,朝礼での校長先生の長い説教を思い出して下さい。
学生全員に呼びかけるメッセージなので…面白くも何ともない,人によっては文字通り倒れてしまう(熱中症)というひたすら苦痛でしかありません。
だからこそ,「全員に振り向かせる」という欲を捨てて,特定の人に絞るのです。
これが,人を振り向かせるコツです。
最後に。
この曲を選曲した人のマーケティング的発想には脱帽です。
あの「ドラゴンクエスト3」という文字通りのブランド力を,JASRACへの楽曲使用料だけで借りてきたわけです。
悪く言えば「他人のふんどしで相撲をとる」ような,フェアではない感じを受ける人もいるかもしれません。
私に言わせれば,正にこれこそが「レバレッジ(てこ)」でしょう。
小さな努力で非常に高い結果を出すわけです。
…もっとも,このCMは振り向かせることが全てであり,この曲にしたことで,この車の売れ行きがどれだけ上がったかどうかは分かりません。