もう,7〜8年くらい経ってしまったでしょうか。
私がはじめて「カピバラの聖地」と名高い,長崎バイオパークまでカピバラに会いに行ったときのことです。
4泊5日の日程で長崎に旅行へいき,そのうち2日間は,開園から閉園まで長崎バイオパーク内にいました。
他のエリア,他の動物に会いに行くわけでもなく,ずっとカピバラのいるエリアに入り浸っている,怪しい客だったのではないかと,今振り返れば思います。
さて,そんななかでの話です。
飼育員の方から,いろいろ教えを受けました。
カピバラは,腰の後ろに,
「カピバラのツボ」
と呼ばれる箇所があります。
そのあたりを撫で回すと,毛が逆立ってきます。
気持ちよくなっている証拠です。
さらにそこを撫で回すと,地面にゴロンと転がって,お腹を出します。
カピバラを地面に転がすことができたら,何とも言えない至福感に浸れます。
…が。
Youtubeでは,次から次に転がしていく様子の動画がいくつも上がっているのですが,やってみたら,なかなか上手く行きません。
ずっとなで続けると,どこかかへ行ってしまうカピバラもいます。
すると,飼育員が登場。
「あ,その子はそこじゃないです」
といって,のどもとを撫で回すと,数秒で,ゴロリ。
後ろを歩いていた,別のカピバラには,
「この子はここ」
といって,腰の後ろあたりを撫で回すと,やはり数秒でゴロリ。
動画には出ない,まさにカピバラ撫での神業を目の当たりにしました。
長崎バイオパークが,カピバラの聖地と呼ばれている理由は,たくさんのカピバラがいるから。
カピバラは,げっ歯類…ねずみの仲間なので,どんどん増えます。当時はまだまだカピバラがいる動物園は少なかったり,あるいは,動物園内のカピバラ頭数も多くないところがほとんど。
今となっては,とくしま動物園あたりが,40頭以上飼育されており,ここが一番多いのではと思うのですが,当時はやはり「カピバラといえば長崎バイオパーク」でした。
当時も30頭以上が飼育されており,半数以上が放飼場にいました。
つまり,カピバラが16〜8頭くらい,うじゃうじゃいる状態です。
その上で…この飼育員の方,20代後半くらいの女性の方でしたが,彼女はこれだけのカピバラ全員に対して,
「名前で呼んでいた」
のです。
私はカピバラ好きとして覚えられていますが…まだまだ修行は足りません。
カピバラの
「顔と名前を覚えて,通りかかったカピバラを名前で呼ぶ」
ということは,全然できそうにありません。
…もちろん,飼育員の女性にとては,そこが職場です。
毎日のように出勤して,カピバラの顔を見続けているからできることです。
単に餌やりや掃除だけが仕事ではありません。
カピバラの健康管理も仕事です。
「(カピバラの名前)は,ここ数日,ずっとお腹の調子悪いみたい」
などとおっしゃっていました。
1頭1頭の状態をきちんと把握するくらい,カピバラのことをきちんと見ているということです。
私の記憶が正しければ,彼女がカピバラ担当に配属されてから,4年目とのことでした。
つまり,4年間,来る日も来る日もカピバラを見続けてきた人,ということです。
私みたいに,レジャーの時に,カピバラに会いに行って,モフって帰るだけ,ということではなく,文字通りカピバラが生活の一部にまでなっている,ということです。
ここまでくれば…カピバラの名前を覚えたり,それぞれのカピバラのツボを把握して秒殺することもできるでしょう。
さて,ここまでカピバラと32回も書きましたが,あくまでもマーケティングでありコピーライティングの話です。
繰り返します。飼育員は,4年間来る日も来る日もカピバラの顔を見ているから,区別が付くのです。
私は…よほど特徴のある顔でもなければ,なかなかカピバラの顔と名前を覚えるのは大変です。
…人間ですら,満足にできていないのですから。
これは,商品やサービスの開発者,販売者と顧客との関係に似ています。
開発者は,朝から晩までその商品のことを考えています。
開発に何年も掛かっているのであれば,それだけ詳しくなります。背景や,様々な出来事,エピソードなど,いくらでもあります。
その商品について,知らないことなど何もないのではないでしょうか。
知り尽くしていることによって,寝ぼけた発言をすることがあります。
「この商品の良さは,買えばわかる」
開発者としての,極めて客観性に欠けた発言です。
買ったところでいきなりその良さがわかるとは限りません。
これをカピバラに変換すると,
「カピバラはかわいいから,一目見れば顔と名前を覚えられる」
と言うようなものです。
例えば,2頭しかない動物園で,体の大きさが違えば,すぐにわかるでしょう。
ですが,長崎バイオパークのように,十数頭が放飼場にいる状態で,一目見れば分かるくらいの区別は…なかなかできません。
「買えば良さが分かる」
というのは,これくらい無茶な話なのです。
まして…人はその商品が「良い」から買うのではありません。なぜなら,買って何度も体験しないと良さがわからないからです。買う前から良さが分かるはずがありません。
つまり「良さそうだと思うから買う」のです。
「買えば分かる」
は,その商品の魅力を伝えるにあたって,あまりにも怠慢過ぎます。
なぜか。
開発者は,商品開発をしているので,その商品について,知り尽くしています。
知らないことなどないのです。
自分が分かるから,顧客も分かるだろう…という,少々常軌を逸した考えに基づいています。
正気ではありません。
どれだけ自分が知り尽くしていたとしても,その魅力を顧客に伝える努力は不可欠なのです。
最後に…カピバラの魅力を私なりに書く…のはやめておきます。これ以上やると,完全に本筋から外れますので。
ぜひ,動物園に会いに行ってください。
追伸
自分がわかっていて,顧客がわかっていないことを伝える。
実は,かなり難易度が高いです。
あなたの商品やサービスの魅力。
正確に表現できているでしょうか。
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