法律業務を行っていたときのことです。
申請書の中に，依頼者の職業を記入する欄があります。
そこで依頼者に，
「今，お仕事は何をされていますか？」
と質問。
すると，
「……」
沈黙です。
それとなく聞き出してみたところ，ごたごたして，当事務所に依頼しなければならない事態との兼ね合いもあり…
要するに無職。
だからといって，うら若き女性の職業を…この話の流れで，
「わかりました。では職業は無職と言うことでいいですか」
と確認するのも，ちょっと微妙です。
そこで，
「わかりました。では職業欄に【家事手伝い】と書いておくことにします」
と言ったところ，職業を聞いた瞬間からこわばっていた顔が，笑顔になり…ほっとした次第です。
ところで，家事手伝いと無職は何が違うのでしょうか。
定義【無職】
定まった職がないこと。
定義【家事手伝い】
炊事・洗濯・育児など、家庭生活に必要な仕事を手伝うこと。また、その人。
無職の人が，家の中にいて，家事を手伝ったら職業「家事手伝い」にバージョンアップするかどうかは，わかりません。
ただ，実際にその女性は諸事情により職に就くことができず…とはいえ，その諸事情を考えると，家事手伝いはしているはず。
つまり，私は何一つ嘘はついていない…と言うことになります。
ここでのポイントは何でしょうか。
単に，
「わかりました。では職業は無職と言うことでいいですか」
と言いづらい，という空気を読むスキル…ではありません。
代替案を出せたこと。これに尽きます。
ここでは，
「無職」という言葉の代わりに，「家事手伝い」という言葉がとっさに出てきたことです。
その奥にあるのが，言葉に込められた感情です。
「無職」
と聞いて，どう感じるでしょうか。
リストラを食らった…という印象かもしれません。
面接を５０社も１００社も受けたけど決まらずに苦しい…という印象かもしれません。
無職だということで，周りから蔑んだ扱いをされて悲しい…という印象かもしれません。
一方，家事手伝いと聞いて，どう感じるでしょうか。
ある意味，「花嫁修業」だという印象かもしれません。
あるいは，結婚を控えた人が，契約期間の関係もあって退職…実家で家事のスキルアップ…，みたいな印象があるかもしれません。
どことなく，めでたいような感じを抱くかもしれません。
全てが全て…とは言いませんが，多くの場合，言葉には感情が含まれているのです。
例えば，
「裏切り」
「復讐」
などと聴いて，どんな感情を抱くでしょうか。
わくわくうきうきするような気分になるでしょうか。
それとも，ドロッとしたような何かを感じるでしょうか。
少なくとも私は後者です。
復讐のトリガーを使って，煽るようなコピーを書くときが，たまにあります。
そんな時は…だんだん呼吸が浅くなっていくのがわかります。
書き終えると，ぐったりします。
それだけネガティブな感情がそこにあるからです。
人によっては，これを「言霊」と表現することもあるでしょう。
言霊を意識する…というスピリチュアル的な話ではありません。
現に言葉が感情を引き出すトリガーになっている以上，言葉の使い方は気をつけなければならない，という話です。
具体的は，コピーを書くときに，そのコピーを読む方，いわゆるターゲットに，どんな感情を感じてもらいたいのか，ということです。
例えば，怒りという感情かもしれません。
なお，怒りの感情をが良い悪いではありません。
現状に怒りを抱くことで，何かを変える原動力になる，ということであれば，決して怒りが悪いことではありません。
怒りという感情を感じてもらいたい時に，
「安らぎ」
とかの言葉を使ったらどうなるでしょうか。
あるいは，逆に，安堵感や安心感，リラックスしてもらいたい時に，
「殲滅」
などという言葉が使われていたらどうなるでしょうか。
とても適切とは言えないでしょう。
冒頭の例に戻ります。
ごたごたしていて，法律手続が必要なときに，
「じゃあ無職ということで」
と言ったら，相手はどんな感情を感じるでしょうか。
その感情を感じて欲しいものでしょうか。
私はそれがイヤだから何とかしようと思った結果，
「家事手伝い」
と表現したら，緊張が解けた。
ただこれだけの話です。
感じてもらいたい感情を含んだ言葉遣いを心がける。
これに尽きます。
最後に。
これを実践するにはどうしたらいいのか。
身もふたもない話，
「生きた」
言葉をたくさん知らなければなりません。
辞書を読んでいても，身につきません。
そこに込められた感情を感じることまではできません。
小説や映画などで，実際に感情が乗った，その言葉を一つでも多く耳にすること。
これが解決策となります。
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セールスコピーライター 飯山陽平
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