ある商店街を歩いていた時のことです。
商店街の中にあるauショップの店舗ガラスに、なかなか興味深いものが貼ってありました。
デフォルメされた、人の絵に、マンガのような吹き出しがあり、その人のセリフかのようなコメントが書かれていました。
正確に記憶しているわけでもなければ、写真もないので、記憶に基づく概要ですが紹介します。
「ドコモの携帯が調子悪いんだけど、どうしたらいいのだろうか」
こんな感じのセリフが書かれていました。
思わず、吹き出しそうになりました。
auによる、ドコモの名指しによる攻撃です。
力関係的に、auにとって、攻撃する優先順位はソフトバンクではなくドコモなのか…と理解しました。
さて、この吹き出しのコメント…言い換えると、この「コピー」の素晴らしいところはどこにあるでしょうか。
ちょっと考えてみてください。
それは、
「ドコモ」
と名指しにした、という点です。
今日のテーマは、
「脳内ファンタジーを卒業しよう」
です。
ちょっと想像してみてください。
全ての人が、あなたの商品を買いたくて買いたくて…申し込みしようとしたり買おうとしていたり…申し込みボタンを連打していたり…
そんな状況です。
とても素晴らしい状況ではあるのかもしれません。
ですが、それはファンタジーだ…ということはご理解いただけるはずです。
ファンタジーはファンタジーです。
それを現実に持ち込んでしまうと、ただの痛い人です。
それを広告でやってしまうと、非常に痛い広告になることは言うまでもありません。
例えば、よくテレビCMで見るセリフがあります。
ある銀行系貸金業者のテレビCMです。
「道銀ラピ◯ドはどうすれば申し込み出来るのだろうか」
という問いを投げかけて、
「スマホから申し込めます」
という回答をしているCMです。
脳内が完全にお花畑というか、ファンタジーを通り越してただの妄想をテレビCMに持ち込んでいます。
なぜか。
「道銀ラピ◯ドはどうすれば申し込み出来るのだろうか」
などという問いを抱く人など存在しないからです。
数ある貸金業者の中から「道銀ラ◯ッド」という貸金サービスを選択した人【だけ】が、このような疑問を抱きます。
一方、CMで宣伝する目的は、「道銀ラピッ◯」を申し込んでもらうためです。
複数の貸金業者の中で「道銀ラピッ◯」も含めて検討している段階…要するに見込み客の頭の中では、「どうすれば申し込みできるのか」という具体的な申し込み方法までは、まだ検討されていないのです。
金利とか、返済方法とか、返済期間とか、融資の承認が通るかどうか…といったことを考えているのではないでしょうか。
にも関わらず。
「道銀ラピ◯ドはどうすれば申し込み出来るのだろうか」
というCMを流す…ということは、このメッセージで「道銀ラピッ◯」を選択してもらえるのではないか、あるいはスマホから申し込みできることが、申し込みの決断要因だ、と思っているということになります。
あるいは。
「そのCMを見た人の大半が、【すでに道銀ラピッ◯を申し込もうとしているけれど、どうやったら申し込みできるのかわからなくて困っている】」
という前提に立たなければ、このようなコピーにはならないでしょう。
ファンタジーを通り越して、重度な精神疾患に近い妄想を抱いている…と言われても仕方がないでしょう。
このように、脳内お花畑のひどい妄想をCMにしたものと比べると、auショップのコピーは、ずっと素晴らしいと言えます。
全米屈指のコピーライターで、「億万長者メーカー」と称されるダン・ケネディ。
彼の有名な言葉の一つに、
「顧客の頭の中の会話に忍び込め」
というものがあります。
実際に、顧客の頭のなかで【具体的に】どんな会話がされているのか。
これをきちんとリサーチしてコピーを書かなければなりません。
お金を借りようと思って、どこにしようか迷っている【見込み客】が、
「道銀ラピ◯ドはどうすれば申し込み出来るのだろうか」
などと考えているとしたら、それはただのファンタジーです。
また。
もしこのauのコピーが
「他社の携帯が調子悪くて…」
と書いていたらどうなるでしょうか。
一気にリアリティが欠けます。
なぜなら、顧客の頭のなかに「他社」などという言葉はないからです。
ここで「他社」という言葉を使う、ということは、裏返すと「自社」という概念がある、ということです。
そして、自社とはauということになります。
顧客がauを「自社」と捉えるくらい、ロイヤリティ(忠誠心)を抱えているならば、そもそも他社携帯など持つはずがありません。
だからこそ、ここは敢えて「ドコモ」ときちんと書いたことが素晴らしい、と言えます。
もっとも、ドコモの携帯が調子悪いときに、auショップに行って、
「ドコモの携帯の調子が悪いんだけど…」
などと言うでしょうか。
少なくとも、ドコモの携帯の調子が悪かったら、ドコモのショップに持っていくのが自然ではないでしょうか。
結局は、auも、ファンタジーの世界で生きているということになります。
ちなみに、私はドコモの携帯も、サブで持っている。
仮に私のドコモの携帯がおかしくなったら、auショップに行って、
「ドコモの携帯が調子悪いんだけど」
などとは言いません。仮に、本当にそんなことを行ったら、店員から、
「ここはauショップです。ドコモの調子が悪いならば、ドコモショップに行ってください」
と言われるのが関の山でしょう。
もしauショップに行って、言うことがあるならば、
「ドコモは(何らかの理由)なので、auにすることにしました」
という感じでしょうか。
今日のこの視点で、テレビCMや、様々な広告を見てみると…
いかにファンタジーな世界で生きている企業の多さに呆れ返るか、呆れを通り越して笑えるのではないでしょうか。
ファンタジーを卒業しましょう。
きちんと、顧客が脳内で実際に使っている「言葉」をリサーチして、それをコピーにしましょう。
あなたがよりアップスタッツな明日になりますように。
セールスコピーライター 飯山陽平
追伸
なんで売上が上がらないんだろうか…一度でも、このように思ったことがあるなら、一度こちらをご覧ください。