顧客のトリアージ

顧客のトリアージ

顧客のトリアージ
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空港の搭乗口で,小さな子ども二人を連れて赤子を抱いた女性が「優先搭乗」していくのを見かけました。
一人で3人も面倒を見ながらフライトに挑む若い母親のガッツに敬意を表しつつも…正直,近い席だったらちょっと嫌だな,と脳裏をかすめます。

そんなことを考えるから,お約束と言うべきか,フラグを立てたと言うべきか。
私の前の列にずらり。

子どもが騒いだり暴れたりしたら,仕事にならないだろうな…
どこか心のなかで思っていました。

しかし。
このまだ若い母親は,凄腕だったようです。
着陸して駐機場に着くまで,一度も子どもは騒いだりしませんでした。
せいぜい,私の前に座った子どもが,座席の隙間から覗き込んできて,何度か私と目が合うくらいです。

母親が何をしていたのかはよくわかりませんでしたが,きっと子どもに注意関心をきちんと向けていたのではないか,と推測されます。
子どもが騒ぐ場合,親は子どもそっちのけでスマホに夢中な場合が多いようですから。

さて。
今日は機内の「安全に関する案内」です。
LCCでは,機内にVTR再生装置がないので,客室乗務員のデモンストレーションによる案内がなされます。

今となっては,注意を向けることはほとんどありません。気が向いた時に見て,聞くくらいです。
その中で,少々気になる点があります。

全座席に準備されている「安全のしおり」を撮影しました。

私の腕がしょうもないのと,気流の関係で飛行機が揺れまくったので,写真の精度はひどいです,ご容赦下さい。

これは,酸素マスク装着に関する案内のピクトグラムです。

定義【ピクトグラム(=ピクトグラフ)】
一般に「絵文字」「絵単語」などと呼ばれ、何らかの情報や注意を示すために表示される視覚記号(サイン)の一つである。(ウィキペディア)

よく見てみたら分かるのですがこれは,母親が子どものために酸素マスクを装着させています。
そして,母親自身は,すでに酸素マスクを装着済です。

実際に,機内安全ビデオや,客室乗務員のアナウンスなどでは,まず親が装着してから小さな子どものために装着を手伝うように指示しています。

ふと疑問に思うことがあります。
なぜ,親が先で,小さな子どもが後なのでしょうか。

理屈としては,親は子どもの面倒を見る立場にあるのだから,仮に子どもを先に酸素マスクを装着させている間に,親がダウンしてしまったら…酸素マスクこそ装着済みであっても,子どもは一人で機内から脱出できるとは限りません。
だからこそ,まずは親が装着して,後から子どもに装着させるのでしょう。

あくまでも推測です。
緊急事態になって,酸素マスクが必要になった時,CAの人たちはまず自らが装着するでしょう。
そして,装着済みの他の乗客を避難させるために全力を尽くすでしょう。
もし,CAが,まず他の乗客から…などとやっていたら,その役割を果すことはできません。
だからこそ,CAはまず自分自身が装着するのでしょう。

同じように,親もまず自分が装着して,それから子どものために全力をつくすことでしょう。

では冒頭の,母親1人に幼子2人赤子1人の親子連れの場合。
もし緊急事態になったら,母親はまず自分が酸素マスクを装着させるとして,次にどの子のマスクを装着させるのでしょうか。
時間的猶予が…自分の他にあと1人だけだったとしたら…誰か1人を助けて,2人を諦めざるを得ない状況だったら…この母親は,どの子にマスクを装着させるでしょうか。

まさに,命の選択です。

災害現場などの極限状態では,この命の選択が行われることがあります。
トリアージです。

定義【トリアージ】
災害や事故などで同時発生した大量の負傷者を治療する際、負傷者に治療の優先順位を設定する作業。限られた医療資源で最大限の救命効果をもたらそうとするもの。

極論を言ってしまうならば…助かりそうにはない人は,見切りを付けて,助かりそうな人だけを助ける,というものです。
もし万全の医療体制だったら助かるかもしれないけれど,状況がそれを許さないならば…命の選択が行われることもあるでしょう。

意識不明の重体で,助かるかどうかもわからない人に,死力を尽くして看護した結果,その時間的リソースをその人につぎ込みすぎて,他の被災者を放置。結果的に10人が帰らぬ人になる…という状況では目も当てられません。
覚悟を決めて,トリアージを実践する必要があるでしょう。
医療の世界で働く人たちは,そのような重い責任と覚悟を持って活躍しているのだと思われます。

そう考えると,私たちは命の選択をしなくても済む,という点ではありがたいものです。
…と思わなくもないのですが,果たしてこれは本当でしょうか。

私は,クライアントの一人,あるファイナンシャルプランナーに,
「あなたがセールスに失敗したら,顧客は一家で無理心中になるかもしれない」
くらいの覚悟を持って,クロージングを掛けるように言ったことがあります。

ファイナンシャルプランナーは,お金に関するプロフェッショナルです。
お金の管理が下手でどうしようもなくなって,思い詰めて自殺してしまう…という人がいるかもしれないからです。
めったにないでしょうが,ないとは言い切れません。
もしその時,セールスに成功していて,プロフェッショナルとしてお金に関するアドバイスをしたら,死ななくて済んだかもしれないのです。

この状況を極限とした場合。
そのような顧客が一度に多数現れたらどうするでしょうか。
対応できる数は限られています。全部の顧客を面倒見ることはできません。
すなわち,助かる顧客と助からない顧客はいる…ということになるのです。

かなり極限の話ばかりを続けました。
ですが…生死に関わる状態かどうかはともかく,もし顧客があなたの元を訪れることで幸せになるとしたら…そうでない人は不幸せになる,ということでもあります。
この地球人の全ての人を,あなたは面倒を見ることはできません。

ならば…誰を顧客にして,誰を諦めるでしょうか。

これが,「顧客のトリアージ」という考え方です。
死ぬわけではないのですから…だからこそ,あなたが本当に大切にしたい人を顧客にすればいいのです。
言い換えると,あなたが大切とは思えないような人を顧客にすればするほど…あなたが本当に大切にしたい人を蔑ろにしてしまうのです。

さあ,あなたは「誰」を顧客にするでしょうか。

あなたがよりアップスタッツな明日になりますように。
セールスコピーライター 飯山陽平

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