いつ，どんな状況でそれを見たのかは忘れました。
具体的な言い回しも覚えていません。
ある占い師の，恐るべきキャッチコピーが，確かこんな感じです。
「２０１７年，新しい自分と出会うために」
それを見た時に，悪寒がするくらいのおぞましさを感じたのは覚えています。
このキャッチコピーに込められた，本当の意味とは何でしょうか。
個人的には，占い師という職業は，極めて高い職業倫理が求められる，責任の重い仕事だと思っています。
…でないと，すぐに道を踏み外してしまうからです。
例えば…「絶対に外れない占い」は簡単です。すぐにできます。
これでいくらでも金儲けできてしまいます。
具体的には，こんな占いがあったらどうなるでしょうか。
「あなたは，これから１週間以内に交通事故に遭います。今からくれぐれも気を付けるように心がけて下さい」
これは，絶対に外れません。
なぜか。
仮に１週間以内に事故に遭わなかったらどうなるでしょうか。
「あの占い師の助言通りに，車に気をつけたから，事故に遭わなくて済んだ」
と感謝されるだけです。
もし１週間以内に事故に遭ってしまったら…その事故で一命を取り留めることができれば，信者が一人誕生します。
「１週間以内に事故に遭う」という「予言を的中」させたからです。
「あの占い師，本当に凄い！」
となります。
このように「外れたことが証明できない」という「絶対に外れない占い」は簡単にできます。
だからこそ，簡単に騙してお金を巻き上げることができてしまうからこそ，顧客に対して適切な価値を提供しなければいけないのです。
この点を意識している，素晴らしい占い師もいますが，そうでない占い師もいます。
さて，冒頭の占い師は，どちらでしょうか。
…もちろん，後者です。
このコピーに込められた，裏のメッセージは，
「どうせ，２０１６年は，うだつの上がらない１年だったでしょ。２０１７年こそ何とかしたいならば，私のところに来なさい」
こんな感じでしょうか。
さすがに，ひねくれすぎた見方かもしれません。
ですが，ニュアンスとしては，外してはいないはずです。
なぜなら，本当に自分に向き合って，自分を高めて，より望ましい未来に向かってチャレンジしていくならば，
「新しい」
自分である必要はないからです。
今の自分を高めればいいだけの話です。
だからこそ，「新しい自分」というキーワードを使うことで，しれっと「今の自分」というセルフイメージに攻撃を加えていることになるのです。
ちょっと想像してみて下さい。
ある女性が，５回離婚して，６回目も離婚しようかどうか悩んで，占い師の元に訪れます。
そこで，
「旦那に問題がある。さっさと次の人を探したほうがいい」
という占い師のアドバイスがあったらどうなるでしょうか。
６回離婚する…ということは，相手ではなく，その女性自身に問題があるはずです。
本当に幸せな結婚生活をしたいのであれば，自分に向き合って，高めていかなければなりません。
にも関わらず，占い師のアドバイスが「相手のせいにすること」を正当化して，成長する機会を奪ってしまったのです。
これで，女性は自分自身に向き合わなくて済むのです。このまま７回目も８回目も，この占い師を訪れて，「正当化」の材料を買いにいくことでしょう。ロイヤルカスタマーの獲得成功です。
もし…本当に占い師が，その顧客の成長を願っているならば…
「新しい自分」
などと表現して，今の自分を「ダメなもの」として扱うようなマネはしないでしょう。
それをコピーにするならば，例えば…
「２０１７年は勝負に出る年か，守りを固める年か」
感じでしょうか。
私は占いはよくわからないし，プロに占ってもらったこともないので，あくまでも想像の範囲です。
決して，本人の問題から目を背けて正当化させる仕事ではないでしょう。
目を向けるのではなく，向き合って，成長していくために，時には寄り添って優しく背中を押してあげたり…あるいは時には叱咤激励すること。
そこに価値があるのではないでしょうか。
決して超常的な何かにすがりつく為の窓口ではないはずです。
新しい自分なんて求める必要などありません。
新しさを求めるべきなのは，成長へのアプローチでしょう。
最後に。
もしこの冒頭の占い師が，真摯に顧客の成長を願っていた場合。
このコピーではダメでしょう。
伝わっているメッセージと，獲得したい顧客像が一致していません。
気をつけないと，伝えたいことと正反対のメッセージが伝わってしまうということもあります。
コピーは慎重に書かなければいけません。
あなたがよりアップスタッツな明日になりますように。
セールスコピーライター 飯山陽平
追伸
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