大相撲中継を見ていると、たまに力士のインタビューが入ります。
そのコメントがなんとも素晴らしいものです。
具体的に誰がなんと言っているかは省略します。
非常に乱暴な言い方をしますが、どの力士も大体同じようなことしか言いません。
笑い話なのか都市伝説なのか、本当のところはわかりません。
外国人の力士が、まだ日本語に不慣れな状態でインタビューを受けた時に、このように答えるように、という「テンプレート」みたいなものがあるのだとか。
「ありがとうございます」
「一生懸命稽古します」
「一番一番に集中します」
「明日も頑張ります」
インタビュアーである、NHKのアナウンサーからいろいろ聴かれても、この通り答えていれば、なんとなく形になるのだとか。
アナ「おめでとうございます」
力士「ありがとうございます」
アナ「勝因はどんなところにありましたか?」
力士「一生懸命稽古します」
アナ「勝ち越しも見えてきたのではないでしょうか」
力士「一番一番集中します」
アナ「明日は大関との対戦です」
力士「明日も頑張ります」
こんな感じで、なんとなく答えになる、という話です。
テンプレートの存在の有無が本当かどうかはわかりません。
ただ、実際に力士が概ねこのような受け答えをしていることは確かです。
さて、今日のテーマである「売上アップ心得」です。
すでに、述べてしまった感もありますが、解説します。
ここでの曲者は、アナウンサー。
相手力士の状況によって、どんな質問が来るのかはバラバラです。
ですが、大体こんな感じの質問になります。
「勝ち越し(※8勝以上)が見えてきたのではないでしょうか」
「二桁勝ち星が見えてきたのではないでしょうか」
「三役※が見えてきましたね」
※ 三役とは番付。正確には、番付の「大関」「関脇」「小結」。ただし大関は特別なので、一般に三役といえば「関脇」「小結」を指す事が多い。
「優勝も見えてきました」
このように、アナウンサーが、様々な「揺さぶり」を掛けてきます。
それでも、力士は平常心を維持するために、
力士「一番一番集中します」
と、念仏のように唱えます。
このアナウンサーの、「欲を掻き立てる」ような精神攻撃を跳ね返す、力士のメンタルの強さは見ていて気持ちが良いものです。
もちろん。アナウンサーとしては
「優勝目指して頑張ります」
といった力士のコメントが欲しくて、このような質問をするのでしょう。
ですが、力士は「一番一番」です。
外国人力士はさておき、日本人力士であれば、きちんと日本語で受け答えができるので、「テンプレート」に頼らず、しゃべることもあります。
そんな時も、聞いていて見事だと思うのが、
「一番一番頑張っていれば、結果はいずれついてくるので、まずは明日頑張ります」
といった答えです。
このような答えを聞くと、本当に見事、を通り越して感動すら憶えます。
なぜでしょうか。
「優勝」
や
「勝ち越し」
や
「番付の昇進」
は、自分のコントロール外です。
勝たなければ達成することはできません。
しかし、100%必ず勝つ、なんて状況はありえません。
だから、力士は100%自分のコントロール下にあることだけを言います。
それが、
「一生懸命稽古します」
「一番一番に集中します」
「明日も頑張ります」
です。
勝つかどうかはともかく、明日の一番に集中することは、100%自分のコントロール下にあります。
明日も精一杯頑張るかどうかは、100%自分のコントロール下にあります。
サボるのではなく、一生懸命稽古するかどうかも、100%自分で選択できます。
100%自分で選択でき、そのことに責任が取れる。
そんな発言だけを力士はするのです。
だからこそ、言葉がたどたどしかったり、朴訥(※)だったとしても、それでも重みのある言葉になるのです。
※ぼくとつ かざりけがなく、口数が少ないこと。
さて、この力士から、私達起業家は何を学ぶべきでしょうか。
結果ではなく行動にフォーカスすること。
人は「出来ることしか出来ない」のです。
年商1億とか、年収1000万とか、数字目標を掲げる人はたくさんいます。
でも、それは「結果」でしかありません。
原因と結果の法則における、結果です。
原因は何になるのでしょうか。
そこにフォーカスしているでしょうか。
例としては非常に極端ですが、
「今月の売上目標を達成する」
と掲げるよりも、
「毎日テレアポ50件掛ける」
というほうが、原因にフォーカスを当てていることになるのではないでしょうか。
そして、起業家はたくさんの情報に曝(さら)されています。
ネットを見れば様々な売上アップ法が目の前をちらつきます。
まるで、アナウンサーの精神攻撃のようです。
例えば、「3日で売上◯◯◯万円」とか。
そんなこと、あるはずがありません。
原因と結果の法則に違反しています。
一晩寝たら大金持ち。なんてファンタジーでしょうか。ありえません。
一時期「引き寄せの法則」なるものが流行りました。全米屈指のコピーライターにして、「億万長者メーカー」と讃えられるダン・ケネディは、引き寄せの法則を「商売の原則に反している」と述べています。
ありえないのです。
結局は、欲しい結果を手に入れるために、目の前の、出来ることを積み重ねることしかないのです。
もちろん、一晩で大金持ちになった人はいます。
ですが、その「一晩」は正確ではありません。その「一晩」の前に、それだけの年月の積み重ねがあったのでしょうか。
ブレそうになったら、儲け話に踊らされそうになったら、楽して金を稼ぎたいと思ったなら…大相撲を見てください。
番付が下位の力士が、上位の力士を倒すことがたまにあります。
そんな時のインタビューを聞いてみてください。
「一生懸命稽古します」
「一番一番に集中します」
「明日も頑張ります」
たまたま横綱を倒せたとしても、それはたまたまではありません。
その数にどれだけの稽古があったことか。黒星を喫して悔しい思いをしたことか。
怪我の痛みに耐えてきたか。
それらの積み重ねがなければ、横綱など倒せるはずがないのです。
出来ることをしてください。それを繰り返してください。
自分の頭で考えて改善を繰り返し、一歩一歩、出来ることを積み重ねていく。
これしか、売上アップといった目標に到達する術はないのです。
あなたがよりアップスタッツな明日になりますように。
飯山陽平